釣りタイトルですみません。
でもね、世に言う「UXマン」っているじゃないですか。
いかにも自分は上流工程だと言わんばかりに様々なフレームワークや聞こえはいい理論を振りかざしているにも関わらず、自分では手を動かしてモノをつくらないし、いざつくってもらったらアチャーなアウトプットだす人たち。
そもそも「UXデザイン」には色んな解釈があったところに、“つくってなんぼ”のWeb業界にそういう人たちが少なからずいる(し、えてしてなぜかデカイ顔をしている)もんだから、もはやUXデザイナーという職そのものが胡散臭いと思われていることが多いんですよね。
前職の話になりますが、当初「UX推進部」という部署に属していたので、勤務外にもUX系の勉強会にはたくさん参加してみたけれど、ほとんどくっそ当たり前のことしか言ってない講演とか、Sketchはいいぞ〜って永遠に言ってるだけの集まりとか、本当に参加する価値がないものばかりだったことを思い出します。
ここまで僕の愚痴でした。
とはいえ、ユーザー中心主義の考えやフレームワークは経営判断に大きく関係することもあるし、ちょっと下品な例でいえば、目の前の施策や数値だけを追いがちなディレクター等が全くユーザーのことを考えていない提案をもってきたときの反論のための説得材料になったりします。(その例を間近でいくつか見たり体験したりしてきました)
それに、きちんとビジネス上の課題とユーザーの抱える課題をまとめて解決する方向へとチームをリードできるUXデザイナーも希少ながら認められます。(ちなみにシリコンバレー界隈ではいわゆるグラフィック系のWebデザイナーよりUXデザイナーの方が概して結構な高給取りだそう)
ではどうして存外日本のUXデザイナーと呼ばれる人たちの言ってることが「よくわからない」「話が長い」「カタカナ多い」「当たり前のことを言ってるようにきこえる」のかというと、「UXデザイン」という言葉が内包している概念が多すぎるから。
じゃあもっとUXという概念に初めて触れる人にも分かりやすいように意味を絞って、特にWeb系のサービスやプロダクトを新規でつくる上で実践的に役立ちそうな解釈での「UXデザイン」って何なの?と原点に立ち返って考えてみました。
目次
1. UXデザインとは何か?
すなわちUXデザインとは、
「みんなでちゃんと企画すること」です。
単純でしょ?
ポイントは「みんなで」という箇所。
暴論なのは百も承知ですが、この解釈においては「ひとりでUXデザインする」という行為はありえません。
ひとりでチームプレイする、と言っているようなものです。
よって、チームみんながUXデザイナーであることが理想形態なのですが、ではUXデザイナーという独立した職種に価値がないのかというと、案外そうでもありません。なぜならば多くの企業が「UXデザイン=みんなでちゃんと企画すること」を実践できていないからです。
ユーザー目線で考えよう!なんて当たり前のことを偉そうに語ってるだけだから胡散臭くなるのであって、UXデザイナーという職種としての仕事は「UXデザイン=みんなでちゃんと企画すること」をチームにとりいれることだと考えれば、少なくともスマートフォンの普及により「体験」が重視されている現代には必要な職種だと言えます。
いままでビジネス上の要件や企画職の考えた仕様に従ってモノづくりが行われていたけれども、どうやらそれだとユーザーの本当のニーズが捉えられていない独りよがりな企画になりやすいぞ?ということで発明されたのが「企画の共産化」もとい「UXデザイン」なのです。
企画職の声もきくけど、エンジニアの声もきこう、デザイナーの声もきこう、ユーザーの声もきこう。
2. UXデザインを構成する3つの「デザイン」
なんどもいうように、UXデザインの本質は「みんなで」ユーザーのことを考えながら企画することにありますが、では実際「ちゃんと企画する」というのは具体的にどうすればいいのでしょうか。
これは参考程度に考えていただいて結構ですが、僕自身だれかと「ちゃんと企画する」にあたって、常に以下の3つのデザインに分けて考えています。
- ビジネスデザイン(Whom)
- ストーリーデザイン(What)
- インターフェースデザイン(How)
UXデザインは直訳すると「ユーザー体験のデザイン」になり、そうすると一見2つめの「ストーリーデザイン」のことだけのように思ってしまいがちです。
しかし、「どこ」の「誰」に(ビジネスデザイン)、「いつ」「なに」を(ストーリーデザイン)、「どのように」(インターフェースデザイン)提供するかをすべて考えることで、やっと初めてユーザーにまつわる事象(=体験)を包括的に考えられていることになるので、UXデザインにおいてこの3つはひとつも欠けてはなりません。
ひとつずつ軽く説明していきます。
2-1. ビジネスデザイン(Whom)
どこの誰にサービスを提供するかをみんなで考えます。
主に戦略やマーケティングといわれる領域なので、それを「デザイン」と括るのは日本人にとっては違和感があるかもしれませんが、もとよりデザインとは広義で「設計」という意味であり、この場合もビジネスを設計する行為を指しています。
ビジネスデザインにあたって具体的におこなうのは、たとえば
- 市場の選択(どの領域にするか、競合は誰か)
- ビジネスモデルの作成(どうやって事業を継続するか)
- ペルソナの設定(どんな人に使ってもらいたいのか)
などなど。
前半2つは一見ユーザーには関係ないように見えますが、市場の選択はどこのユーザーにサービスを届けるのかに直接関わってくるし、ビジネスモデルはたとえば広告にしろ課金にしろユーザーの体験に関わってくることが多いです。
ペルソナについては、「こういう課題をもっている人」と決めてサービスを設計してもいいし、逆に「こういうサービスだったらどんな人が一番使うだろうか」という視点でペルソナ設定してもいいでしょう。
これらの具体的なやり方はここでは記述しませんが、すべてに共通していえる大事なことは「柔軟に変えられるようにしておくこと」。
「このインターフェースならこっちのビジネスモデルの方がいいのでは?」「このストーリーなら競合はむしろあの会社なのでは?」なんてことは実際のサービスづくりにおいて頻繁に起こるし、UXデザインの効用を考えるとむしろ起こるべきです。
逆説的なようですが、ビジネスファーストな考えを捨てて、自分たちがどうしたらユーザーに素晴らしい価値を届けられるかをまず考え続け、その提供価値に従ってビジネスの「デザイン」をおこないましょう。
2-2. ストーリーデザイン(What)
前項で決めたユーザーに対してどんなストーリーを提供するかをみんなで考えます。
UX界隈でよく使われるところの「予期的UX、一時的UX、エピソード的UX、累積的UX」を設計するところとも言えますが、
ただしこれらはあくまで言葉の定義付けであって、新規で企画をするときにこの図が役立つかと言われれば微妙なところ。(体験を見直すときなどには有効ですが…)
なので、僕はチームで新規企画をするとき、しばしば 6up Sketches という手法を使っています。
早い話が6コマ漫画で、あるアイデアをもとに「ユーザーがそのサービスを使う前から使った後の様子」を下手くそでもいいからひとりひとり漫画チックに描いてみる。
すると、同じサービスについて描いているはずが、それぞれ全く異なるストーリーを描いていたりして、「ああ、そういうストーリーもありだね」と気づきを得られたり、「どのストーリーにしぼって作る?」と議論を始められたりします。
コマという制限があるゆえに書くことが絞られるので、そのサービスの本質的な価値をシンプルに表すことができるし、たとえ下手くそだとしても絵を描くことでチーム内のコミュニケーションが活発化するので、非常にオススメの手法です。
最終的にそのストーリーを言葉に落とすときは、「いつ」「どこで」そのストーリーを提供するのかも明示的に書いてあげることで、ストーリーが具体化されチーム内でバラバラのイメージを持ちにくくなり、サービスや製品に一貫性がでやすくなります。
2-3. インターフェースデザイン(How)
前項で決めたストーリーを製品としてどのように実現するかをみんなで考えます。
いわゆる「UIデザイン」なので説明する必要もないでしょう。
振り返るとビジネスデザインからインターフェースデザインまでひとつひとつに「みんなで考え」るとわざわざ書いてありますが、もちろんそれぞれにリード役がいるのが現実的だろうし、実際作業するのはひとりでもいいのです。インターフェースデザインなどは特にそうなることが多いですよね。
ただし、それぞれの「デザイン」作業に対してチーム内で何のフィードバックもなく、自分たちのつくるサービスやプロダクト全体(ひいてはユーザー)に対して無関心な状態をつくるのはNG。
だからこそインターフェースデザインにおいて、ProttやAdobe XDなどでプロトタイプをつくり、それをユーザーやチームに早い段階で見せてインターフェース(だけでなく全体的な体験)を検証し、充分な検証結果を得られてから初めてきちんとビジュアルをつくりこんでいくプロセスが重要視されてきているのです。
3. まとめ:UXデザインの本質
デザインの順番として「ビジネス」→「ストーリー」→「インターフェース」のように見えてしまいますが、この3つはお互いに作用しあう関係にあるので、たとえば先述の通り、インターフェースの変更によってストーリーが変わり、それによってビジネスが変わるなんてことはよくある話です。
UXデザインの本質は、チームのみんなでこの3つのデザインをシームレスに、そして素早いサイクルで影響し合いながら開発をおこなう体制そのものにあるのではないでしょうか。
ですから現状の日本の多くの人が「UXデザイン」と言われて真っ先に思い浮かべるであろう「ユーザーインタビュー」や「ユーザーテスト」なども、先述した3つの「デザイン」の精度を高めるための一手段であって、極端にいえば別にそれらなしでの「UXデザイン」もありうる、というのが僕の見解です。
その根拠とまではいかないけれど「融けるデザイン」という本がありまして、UIやUXについてインターネットの歴史を辿りながら体系的かつ包括的にわかりやすく書かれている本なんですが、
この著者は、「体験(UX)」を以下の3つのレイヤに分類しています。
1. 社会レイヤ
価格設定などの経済的合理性や、流通のように人の手に届くまでの社会システム、流行など
2. 文化レイヤ
人間のコンピュータとの向き合い方や活用方法、コンテンツのストーリーなど
3. 現象レイヤ
人間(無意識も含む)の振る舞い。モノやデバイスに触れる(見るなども含む)最中の知覚や身体への親和性など
お気づきのように、この3つのレイヤはそれぞれ「ビジネス」「ストーリー」「インターフェース」に対応してますよね。
実はこの本を読んでから自分の「UXデザイン」に対するバイアスをすべて取り払って、一からその概念に立ち向かってみたら行き着くところは結局同じだったというオチなんですが、さりとて人の数だけ「UXデザイン」の概念への想いがあるでしょうし、僕はそういう人たちの「俺的UXデザイン」な記事をみるのが好きなので、この記事への反駁としてでもぜひ皆さんなりの「UXデザイン」を実例など交えながら教えていただけると幸いです。
4. おまけ:UI/UXデザイナーという肩書きについて
「UI/UX」という表記がWeb界隈ではよく使われますよね。
これは特にモバイルアプリのサービスが、インターフェース(UI)の選択によってすべてのユーザー体験(UX)が顕著に変更されやすいものだからです。
表記が並列なのはおかしいとか色々気にしてる方々が世の中には多いですが、最近読んだ記事にこんな一文がありました。
僕が「UXとUIは別物です」と突っ込まれたり、一緒に語るなと言われ続けても、頑なにUI/UXデザイナーを名乗り続けているのは、考えたアイディア実現に移す所まで責任を持つのが仕事だと考えているからで、わざわざ切り離す必要も無いと考えている。
その時、実現するインターフェースがGUIでは無い場合もあるが、結局の所、アイディアが実現できれば何でも良いのだ。
(tsublog「UXデザインを学んだその先にあるモノ」より)
僕も肩書きとして基本「UI/UXデザイナー」と名乗るようにしているのはまさにこれが理由です。
最初から最後まで責任もってやります宣言をしてるつもり。
肩書きなんて時代によって変わりますけどね。
肩書きといえば前職を辞める直前、当時の直属の部長に「今後の自分の肩書きに悩んでいる」という相談をしたら
「肩書きで呼ばれるようになってはいけない。“広野 萌”という名前で認知されなさい。」
という至言をいただきまして、今でも定期的に頭のなかで反芻します。
肩書きで認知されると、その肩書きに能力が縛られがちですから。